クロガネ・ジェネシス

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第二章 ルーセリアフォレスト

 

拒絶と愛の力



 牢屋から脱出し、俺達3人は廊下に出た。

 俺は無限投影でトンファーを生み出し、戦闘に備える。 

 同時にシャロンを探しながら移動しなければならない。俺達だけが脱出できても仕方がないのだ。

 廊下にでてすぐに、敵は現れた。黒服の男達が俺達を逃がすまいと銃を持って立ちふさがる。

 俺が先頭に立ち、奴等が銃を構える前にトンファーで殴りつけて、その動きを封じる。黒服達が戦闘体制に入る前には進行方向上に現れた敵を即座に無力化する必要がある。

 だから俺は全力で走り、現れた敵は即座に潰す。

 そして俺のすぐ後ろを行くネルは俺が倒し漏らした敵を片付ける役割を担う。ネルは自身の拳で次々と黒服達を黙らせていった。

 同時に扉を見つけたらそれを蹴破り、シャロンがいないかを確かめながら進んでいく。

「く、クロガネ君……速すぎるよ……!」

「と、とてもついていけない……」

 火乃木とネルは俺がどんどん前に行ってしまうために追従しきれていないようだ。

 仕方がない。俺は無力化した黒服の銃を拾い上げて前に構えながら走ることにする。2人が追いつけるようにある程度速度を落としながら。

 銃はリボルバー。6発まで連続で発射可能な銃だ。一応俺にも銃を撃つ技術はある。6発撃って使い捨てにすればいい。

「オラオラどけどけどけどけぇ!」

 叫びながら黒服供を殺すことなく銃で撃って無力化していく。

 廊下に身動き取れなくなった黒服供が溜まっていく。

 今のところシャロンは見つからない。

「シャロオーン! どこだぁー!」

 俺はシャロンの名前を叫びながら走る。長い廊下は幾度となく曲がり、そのたびに黒服の男が姿を現す。今回もそうだろうと、曲がり角を曲がる瞬間に戦闘態勢を整える。

 ところが……。

「どういうことだこりゃ……」

「突然出てこなくなったねぇ、黒服の男達……」

「諦めちゃったのかな……」

 ネル、火乃木が口々にそういう。黒服の男達が俺達の行く手を塞ぐのではなく、何故か撤退し始めたのだ。

 なんにせよ好都合だ。

「丁度いい。シャロンを探しながら館を探索するにはな」

「けど、罠の可能性だってあるんじゃ……」

 ネルが心配そうにそういう。

「確かに可能性がないわけじゃない。けど、可能性を議論したって結果は変わらないさ」

「まあ、そうかもしれないけど、一応用心しながら進もう」

「そうだな。警戒は怠らずに進むとしよう」



   敵が出てこなくなったため探索がしやすくなった。

 俺達はシャロンの姿を探しながら、館中の部屋を見て回った。しかし、その間、シャロンも黒服供も姿を見せることはなかった。

 そして、ここが最後の部屋だ。

 3階で部屋の中はかなり広い。しかし、ここにもシャロンはいなかった。

「クソッ……シャロンはどこにいるんだ!」

 頭にくる。だだっ広い館だから探索に時間がかかるのは仕方がないのは分かる。だが、もし、ノーヴァスがここを放棄して行方をくらませたとしたらもうどうにもならない。

 そんな考えがさっきから頭を離れない。

「落ち着こうよ、レイちゃん」

「火乃木」

「きっと、きっと無事だよ。そう信じようよ。今は」

「……ああ、そうだな」

 確かにイラついたって仕方がないことは分かる。そうだ、こんなときこそ冷静に対処しなければ。火乃木だって魔術師の杖がないから戦闘に参加できずにもどかしい想いをしているはずだ。

「! クロガネ君!」

「どうした!」

「外!」

 ネルの言葉に従って俺は窓から外を眺める。

 そこにはノーヴァスと黒服の男達、そしてシャロンの姿があった。

「シャロン!」

 俺はすかさず走る。一旦部屋から出て、玄関を目指す。

「あ、まってレイちゃん!」

「クロガネ君!」

 シャロンを自由にする。俺はシャロンとそう約束した。その約束は必ず果たす!

 2人には悪いが先に行かせてもらう。今は少しでも時間を無駄にしたくない。



 一階ホールにたどり着く。この先にシャロンがいる。

 俺はすぐに玄関の扉を開けようと扉に手をかけた。

「待ってレイちゃん!」

「……!」

 火乃木の声に俺は振り返る。ホールの2階から降りてくる火乃木とネル。

「外にはシャロンちゃん意外にも、多くの人間がいる! 今外に出たら蜂の巣にされるかもしれないよ!」

「なるほど、そういう事か……」

 ネルの言葉に俺は納得する。

 さっきまで俺達に襲い掛かってきていた黒服の男達は玄関から出てきたところを一斉に銃で撃ち殺すために1度退いたんだ。

「なら、こういうのはどうだ?」

 俺は右手に魔力を込め、無限投影を発動させる。現れたのは巨大な盾だった。

「俺がコイツに隠れて外に出る。2人はここで待っていてくれ」

「わかった」

「レイちゃん。気をつけてね……」

「ああ」

 俺は自分の体を盾の後ろに隠したまま玄関の扉をゆっくりと開けた。

「レイジ!」

 その瞬間シャロンの声が聞こえた。同時に銃声が鳴り響き、盾を通して衝撃が伝わってきた。

 盾に隠れているせいでシャロンの姿はまだ確認できない。奴等はシャロンをおとりに俺達を殺すつもりだったようだな。

 こんな森の奥深くで銃声がどれだけ鳴ったって、助けに来るものなんか誰もいない。だからこそ平気で連中は銃を撃てる。

 さて、この状況どう打開しようかな。

 このまま盾に隠れて連中の弾切れを狙うのは勘弁して欲しい。連中がどれだけ弾丸を持っているのかわからない以上はな。

 ……!

 いい手を思いついたぞ!

 俺は盾を放棄して、館のホールに戻る。

「レイちゃん?」

「どうしたの?」

「いいことを思いついただけさ」

 窓ガラスから外の様子を見る。シャロンはノーヴァスのすぐそばにいて、銃を撃っている黒服どもはその周りで玄関に向かって銃を構えている。

 玄関を正面に俺は下がり、再び自分の体を覆うほど巨大な盾を出現させた。

 そして、玄関目掛けて全力で走る。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 玄関を突き破り、そのまま突進する。

 外に出た瞬間響き渡る銃声。その銃声を無視して、俺はシャロンとノーヴァスの位置に向かって迷いなく突進する。

 そして盾を放棄し、右手からトンファーを生み出すと黒服の男に向かって振るう。

「……!」

「……な?」

 声もなく1人目の男が倒れ付し、間髪入れず俺は動き回る。

 至近距離で突きつけられていた場合は話しは別だが離れているか動き回っているかすれば、銃なんて案外当たらないものだ。

 とにかく足を動かし、状況判断を一瞬で行い、黒服の男達にトンファーを振るう。

 1人、また1人と黒服の男達は倒れていく。もちろん1人として殺していない。精々指の骨を折って戦闘不能にするくらいだ。

 総勢10名ちょい。黒服の男達を全員戦闘不能にし、俺はノーヴァスとシャロンへ目を向けた。

「馬鹿な……!」

 ノーヴァスは絶句している。当然と言えば当然だ。これだけいた人間がたった1人の人間の力で1人残らず戦闘不能になったのだから。

 俺はシャロンの瞳を見つめる。

「シャロン……おいで」

「……!」

「約束したよな。お前を自由にするってさ」

「何を勝手なことを言う! 貴様には死以外ありえん!

「私……」

「!?」

「ジユウってよく意味知らないけど……私の好きなようにしていいんだよね?」

「ああ……お前の生き方は、お前が決めていいんだ」

「……ほんとう?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ私、ジユウがいい!」

「な!?」

 予想していたのかしていなかったのか、ノーヴァスは絶句した。今シャロンがノーヴァスを裏切れば、ノーヴァスを守るものはいなくなる。

「レイちゃん!」

「火乃木!」

 俺は火乃木の声がした方に目を向けた。

 だが俺の目に映っていたのは予想していなかった光景だった。火乃木とネルの2人が黒服の男達に捕らえられており、こめかみに銃口が向けられている。

 しまった! まだ館の中に戦える黒服の男達がいたのか!

「ごめん、クロガネ君……」

 くそ……人質を取られてたんじゃ流石に身動き取れない……!

「シャロン……お前は私のものだ……」

 言ってノーヴァスはシャロンの首に自分の腕を回し、シャロンを無理やり自分のそばに寄せた。

「……!!」

「最初からこうしていればよかった……」

 ノーヴァスは懐から笛のようなものを取り出しそれを吹いた。

 あまりにも耳障りな甲高い笛の音。熊よけか何かに聞こえたそれが鳴り止んだとき、シャロンの表情が変化した。シャロンの瞳孔が開かれ、口からよだれを垂らしている。

「さあ、よく見ろシャロン。お前にとって希望となる男を……」

 ノーヴァスは自らの服がシャロンの唾液で汚れるのも構わず、首に回した左手をそのままに、右手でシャロンの頭を掴み俺の方を向けさせる。

「レ……イ、ジ……ヨ……ケ……」

 なんだ……? なにが起こってる!?

「ノーヴァス! シャロンに何を……!」

 それ以上続かなかった。それよりも激しい痛みが俺の左手を襲ったからだ。

 大きく口を開いたシャロンは、涙を流しながら倒れていく俺を凝視する。



   ――ない。



 俺の左腕がない。

 シャロンの口から放たれた光。あまりにも一瞬だったが確かに俺はそれを見た。

 その光がレーザーブレスだと直感で理解した俺は回避行動を取ろうとしたのだ。しかし、間に合わなかった。その結果。シャロンのレーザーブレスは俺の左腕を直撃したのだ。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 ひじから先、左手の変わりに赤い飛沫を噴き出しながら、痛みのあまりに俺は絶叫した。頭が真っ白になる。左腕が存在していたところを握り締め、痛みを少しでも和らげようとする。が、そんなことで痛みが消えるわけがなく、俺は地面をのたうち回る。

「レイちゃああああん!」

「クロガネ君!」

 2人の声なんか聞こえない。全身を痛みと恐怖が支配する。

 寒気がする! 吐き気がする! 耳鳴りがする! 何より視界が白くなっていく! 絵の具か何かで透明なガラスを塗りたくっていくかのように視界が徐々に狭まっていく!

 痛い痛い痛い痛いいたいいたいイタイイタイイタイイタイ!!

「ああ……ぅああ……!」

 薄れていく意識と消えていく視界の中で、俺はシャロンに目を向けた。シャロンはノーヴァスの腕から開放され、その場にへたり込んでいる。

「よく見ろ……人間なんてこんなにも簡単に死ぬ。そんなものに縋《すが》ったところで、お前の目の前から消えていなくなっていく者達ばかりだ」

「……ぅぅ」

「お前は兵器なんだ。生きる兵器。そう、人を殺すために生まれたんだ。わかるな?」

「……レイジ……レイジ」

「シャロン! 聞いているのか!?」

 ノーヴァスが語気を強めた瞬間、シャロンが叫んだ。

「あ―――――――――ッ!!」

 声なき声を上げるシャロン。

 そのシャロンの体から白い光が放たれた。

 シャロンの全身が光輝くと同時に、幾重もの白い光の束がシャロンの頭上に伸びていく。

 その光の先端。その形が、俺にはとても信じられなかった。

「……おれは……なにを」

 見てるんだ?

 まるでドラゴンの頭のようだ。その光の束が無数の増え、そのうちの何本かが俺に向かって伸びてくる。

 まるで人間の指のように俺を包み込む光の束。ドラゴンの頭を形作っている光が一言言葉を発した。

 ――スキ。

 と。

 その瞬間だった。俺の左腕から痛みが消え、傷口が消滅した。左腕がなくなったことに変わりはないが、この状態は腕を失った人間が、治療を受けたしたあとのようだ。

 いや、それだけではない。全身から痛みも耳鳴りも消えた。

 俺はゆっくりと体を起こし立ち上がる。

「……」

 俺は何もいえない。悪い夢でも見ているかのようだ。

 シャロンの体を基点に伸びた光の束は今度はノーヴァス目掛けて1本だけ飛んでいく。

 そしてドラゴンの頭を模した光は、ノーヴァスを睨みつけた。

 ――キライ。

「ウ、ウワアアアアアアアアア……がっ」

 ノーヴァスの叫び声が消えた。ドラゴンの頭がノーヴァスの頭を食らったのだ。

 光の束はまだ止まらない。そして、俺の耳にはたった1つの単語が繰り返し聞こえてきた。

 ――キライ

 ――キライ キライ

 ――キライ キライ キライ

 ――キライ キライ キライ キライ

 ――キライ キライ キライ キライ キライ

 ――キライ キライ キライ キライ キライ キライ

 ――キライ キライ キライ キライ キライ キライ キライ

 ドラゴンの頭達は口々にそう言って黒服の男達を殺していく。

 これが……シャロンの力……。

「! 火乃木とネルは!?」

 俺は気になって2人の姿を探す。だが、探すまでもなく、2人はさっき黒服の男に捕らえられた場所にいた。

 そして、2人の横には頭を失い倒れている黒服の男達の姿があった。

「2人とも!」

 俺は火乃木とネルに近づく。2人ともこの状況に混乱していてその場にへたり込んで動けなくなっていた。

「な、なんなのかな? ……これ」

「もう何がなんだか……」

 火乃木もネルも、半ば放心していて動けずにいる。無理もない。俺だってわけがわからない。

 1つだけわかるのは、この現象はシャロンによって起こされているという事実だけだ。

 俺はシャロンに目を向ける。シャロンも見た感じは放心していて何を考えているのかを探ることは出来ない。

 やがて……。

 黒服達が全員シャロンによって殺されたためか、シャロンの体から放出されていた光が消えていき、辺りに静けさが漂い始める。

 周りには死体ばかりが並び、この異常な状況を説明できるものは誰1人としていなかった。

「シャロン……」

 俺はゆっくりとシャロンに近づく。

「レイ、ジ……」

 シャロンの足から力が抜け、俺にもたれかかってきた。

「私……」

「シャロン」

 シャロンは放心したままつぶやく。

「こんなこと……出来るんだ……」

 と同時にシャロンの瞳が閉じた。

「シャロン!」

 シャロンの体を支える。死んだのか気絶したのか……。

 何もかもわからない状況下で、俺は何も言えずにいた。

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